真空亭雑記帖
当雑記帖は、真空亭住人の見たことやら聞いたことやら読んだことやらについての感想やら評価やらをつづるところである。
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デヴィッド・クローネンバーグ『イースタン・プロミス』
 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に続く、デヴィッド・クローネンバーグとヴィゴ・モーテンセンのコンビによる第二弾。劇場にも行かず、DVDを手に入れても長らく置いていた作品だが、劇場にも行かず、DVDもすぐ見なかったのはバカであったとしか言いようがない。そういう傑作である。
ヴィゴ・モーテンセンはアラゴルンに並ぶ当たり役を手に入れた。この映画での彼の演技に、アカデミー賞をあげなかったアカデミー賞会員は一体どこに目がついているのかアラゴルンは非常にかっこいいが、非常にかっこいいだけでもあるのでアカデミーに相手されなくても仕方ないけど、ニコライはそうではない。というかなんでこれは作品賞その他にノミネートされていないのだ。
 まあそれはいい。賞など所詮賞である。優れた作品はそれを見て、見た人が感動する。つきつめれば、それだけあればよいのだ。

 作品的には前作と同じく暴力をモチーフとした人間ドラマで、前作が、闇を過去に置き去りにすることで光の現在を手に入れた男が追いついてきた闇に飲まれて夕暮とも払暁ともつかぬ薄暗い世界にたどり着く、というどこまでも結論を宙吊りにしたままで終わる物語であったのは対照的に、光の世界に生きる助産師の女と、闇の世界に生きる「葬儀屋」と呼ばれたりもする男が、子供(赤子と売春婦)という未来を象徴する存在をなかだちにして一瞬交錯する、という、きちんと「整理のつく」構造になっているのが印象深い(もうひとつあるが、若干ネタバレになるので末尾に)。題材的には『ゴッドファーザー』であるとか『インファナルアフェア』といった古今東西のマフィアものの傑作の系譜にも連なる作品ということもできるが、そういった作品以上に、ロシアンマフィアや人身売買に象徴される「闇」と、助産師や家族といったものが象徴する「光」の交錯という、神話的な普遍性の構造がはっきりしていて、リアリスティックな描写に徹した作品であるのにもかかわらず、寓話的なファンタジーであるような印象を与える。
このことが作り手の意図であるのは明らかなのは、物語の起点にクリスマスが置かれていて、そのことを作中で再三強調していることからもわかる。これは、ひとひねりふたひねりしてはあるとはいえ、本質的には、善き行いをした善き者がしかるべき褒賞を得る、古典的なクリスマスストーリーなのである。

 とはいえ、表面的には、世間でいうクリスマスストーリーとは似ても似つかない映画であるのもまた確かだ。世間的には、床屋の親父と息子が客の喉を切り裂いたり、人身売買された少女が強姦されて死んだり、全身にタトゥーを施した男が、全裸で血みどろの殺し合いをするクリスマスストーリーなどない。しかし、そういう酸鼻を極めるような情景の果てにしか描けない「クリスマス精神」もあるのだ。たぶん。きっと。

 出演者の中ではヴィゴのニコライはヒースレジャーのジョーカー並みに突出しているが、その『ダークナイト』と違うのはほかの役者も埋もれてないところで、たとえばアーミン・ミューラー=スタールのボスがいい。ゴッドファーザー(マーロン・ブランドでもアル・パチーノでもよい)的な威圧感ある尊大さともインファナルアフェアのサム的な自信に満ちた卑屈さでもなく、息子を平気で足蹴にできる暴力性と親戚の女の子たちに優しくバイオリン指南する人畜無害感が矛盾なく同居している、寝心地のいいギロチン台のような不気味な存在感は、なかなかどうしてわすれられない恐ろしさがある。ヴァンサン・カッセルのマフィアのドラ息子は設定や動機等でかなり漫画的ではあるのだが、本人のどこまで演技かわからないような不安定感あふれる挙動が上手い具合にキャラクターに奥行きを与えている。ナオミワッツは良くも悪くも普通だが、しかし彼女は普通でなければならないのだから、これは仕方ないだろう。人種差別主義者で「元KGB」であることが自慢なアンナの叔父さんのキャラクターも面白い。彼はポジション的にはさりげなく説明キャラだったりするのだが、それだけでおわらず、中盤以降のある種の緊迫感の種になっていたりするあたりはシナリオの巧緻といえる。

 ちなみにDVDについてる特典映像は短いながら結構面白い。付属のアウターケースが見終わってから見るとちょっと感動するデザインになってたりするし、商品としては悪くないのだが、しかしやっぱり劇場で見たかったなあ。このコンビによる第三作は果たして実現するのだろうか? いやいいかな。これを越えるのはとても難しいだろうから。


 *ニコライに関して終盤で明らかになるある設定も物語としての必然性だけでなく、「ヒストリー~」における主人公の設定のネガとしても意味があるのだろう。




 おまけ 
作中ではついに「Eastern Promises」という言葉が出てこなかったと思うのだけど、この言葉が人身売買契約という意味であるっていうのは欧米の人にはそれなりに知られた事実なんだろうか? 検索エンジンで調べてみても映画の関係ばかり出てくる(ので、まあすぐに意味はわかったけど)。
 まあジャーゴンとしての意味はわからなくても、イースター(復活祭)との関連でクリスマス的な気分を想起すればいい言葉であるのかもしれない。いや、これは違うかな。
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