真空亭雑記帖
当雑記帖は、真空亭住人の見たことやら聞いたことやら読んだことやらについての感想やら評価やらをつづるところである。
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コーエン兄弟の映画は原題そのままの邦題にならないことが多い
ジョエル&イーサン・コーエン『ノーカントリー』

 コーエン兄弟の最新作。この兄弟の作品は『バートンフィンク』『ファーゴ』あたりはとても好きなのだが、期待に胸を高鳴らせて見に行った『オーブラザー!』や『バーバー』が、趣向ばかりで空虚という『ミラーズ・クロッシング』タイプの味気ない代物だったのでどうにも興味が薄れてしまい、以後の二作は劇場にもいかずDVDやテレビでも見ていなかった。今回久しぶりに劇場に行くことになったのも、コーマックマッカーシーの原作がおもしろかったのと、MIB所属の宇宙人のおじ様が出ていたからという、はっきり言ってあまりコーエン兄弟の才能に期待をかけない方面での興味があったからなのだった。要するにミーハーということですね。
 だがしかし、これはよいと思いました。バートンフィンクのとらえどころがないようでいて美術品のようにぴたりとあるべきところにあるものが収まっているようなマジカルな感覚もファーゴの喜劇と悲劇とグロテスクと希望が奇跡のように同居している圧倒的なオリジナリティもないが、テキサスの美しいが叙情にはしらない風景を背後に展開される、どう見ても助演じゃなくて主演のハビエル・バルデムという「天の使い」(あるいは、運命そのもの)と、主演賞にノミネートされないのも仕方ない助演ポジションのトミーリージョーンズという「羊を飼うもの」の、ついに交錯することのない対決劇は、先述のコーマック・マッカーシーの原作の見事な映像化でありながらも、副産物でなく、それ自体に価値のある映画としての血肉を得ている。

 見所はやはりバルデム演じる暗殺者シガーである。原作者の言う「純粋悪」や、コーエン兄弟の言う「世界そのもの」、あるいはバルデム自身の定義する「曲がらない樹」というような抽象的な存在であることを引き受けつつ、どこかそうあることに必死である――与えられた役割に忠実であろうとする――小さな人間である、というような、独特の切なさが素敵だ。
他方、トミーリージョーンズの保安官ベルは、CMのイメージがかぶって困るかと思ったがそうでもなく、迷いつつも、迷う人間であることに迷いのない保安官――樹の喩えを借りるなら、風に揺らぐが決して倒れない樹、というところか。ベルとシガーは序盤の電源の入ってないテレビのシークエンスで示されるように、遠くて近い存在なのである――として、作品を見る視聴者を導く。物語自体は、原題が示すような非常で厭世的な認識を示しているにもかかわらず、作品としてはニヒリズムに陥らない理由は、原作の主題をコーエン兄弟が的確に演奏しているというだけでなく、このトミーリージョーンズの穏やかで力強い存在感によるところが大きいと思う。

 あるいは二人をつなぐ男ジョシュブローリンをどう見るかでこの映画の評価は大きく変わるのかもしれない。つまり原作を読んでいたり、なんらかの事前情報を得ていたりしてない人は、当然のことながら、ジョシュ演じるモスが物語において果たす役割を知らないわけで、戸惑っても納得いくまでじっくり読み返したりできる小説と違って、整理できないままエピローグまでたどり着いてしまって、索然となる可能性は大いにあるからだ。それでなくても、モスに関しては、原作終盤のあるエピソードとキャラクターが完全に排除されているせいで、その立ち位置のわかりにくさが増しているのである(といって、それをここに書いてしまうわけにはいかないが)。

 演出的には中盤までのシャープな追跡劇のクオリティの高さ(特に、ハリウッド的な派手さとは距離を置いたところにあるバルデムとブローリンの等身大の戦いが良い)もさることながら、人は映ってるのに顔は映ってなかったり、遠くてはっきり見えなかったりするカットを多用することで生まれる不安感の醸造、といった作り手の手つきの見えるところもあるにせよ、全体には、いい意味でコーエン兄弟らしくない地味なつくりが、むしろ映画的には懐の大きさにつながっているのが興味深い。やはり、作者は黒子に徹したほうが作品にはいいようである。


 ところでこれは作品とはあまり関係ないことなのだが、新宿トーア第二回上映のためにロビーで待機していたら、第一回を観終えた人がぞろぞろと出てきまして、これがなんと二人に一人はお年を召したかたでした。ザ・ムービー・フォー・オールド・メン(アンド・ウィメン・トゥ)?


 ああ、そうそう。猫と犬との扱いの格差が激しいことからすると、コーエン兄弟は猫派に違いない。言い方を変えると犬派の人はほんのすこしだけ、覚悟が要りますよ。


これが原作。見てから読むか、読んでから見るか、というのは古来ある難問だけど、この場合は原作を先に読むのをお勧めしたい。読まなくても話がわからないということはないけど、読んだほうが、余計な混乱をしないですむと思う。それでなくても、日本人には字幕という、英語圏の客よりも処理しなければならないデータ追加があるわけだし。
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